ステンドグラスのペン入れ
少し前のことになるが馴染みの骨董屋さんの店先で文字通り「転がしてあった」ペン入れ。 遠目に一瞥するとなんだかモダンな雰囲気。 (へえ、珍しいな。ステンドグラスじゃないか。) と手にとってみれば縦13×横18センチ程度の長方形でブルーとホワイトの四角と三角を組み合わせたモザイクパターンのペン入れである。 うん?どこかで見たことがあるな。朧気な記憶を辿るに、かつて灯関係の専門店で旧財閥系の家の伝来品と云う、同様のペン入れが売られていたことを思い出した。当然このときのものは私に買えるはずもなかったが。 同様の品とは言い条、かたや旧財閥伝来で高名なステンドグラス作家による作品と、一方、誰か作ったかも判らず、ましてどこから現れたかも判らぬものでは所詮は月と鼈、ダイヤと雲母くらいの差がありますな。 とはいえよくよく眺めれば大正時代の和風アールデコ的な要素を宿しているマチエールとしては充分に鑑賞に耐えうるわけでその出自はもしかするとその旧財閥系の伝来品のツレかもしれない。しかしながらいつしか流転し今では布衣偉帯。しがなきペン入れとして本来の用を為すとすればそこに価格の差を生じるのは勿怪の幸いと言ったところでしょう。 そんなわけで一応、恐る恐る値段を訊くと、そこは専門外のモノであるとはいえ、法外な廉価。今時は高校生の小遣いでも十分購えます。 そんなわけでめでたく我が仕事場の机上の備品と相成りました。 思えばつい先日、私の職場の玄関も再改築の都合上、今では北陸の某施設へ移築されて行ったのですが、それも元はといえば十数年前に私が大学の卒業旅行で行ったイギリスのステンドグラス専門の古美術商でみつけた19世紀のものを組み合わせて構成されたものでした。(このときは同級生たちと3人でアンティーク屋の親爺さんに引率されて行った珍道中でした。) いつしかそんなことも忘れ去られていくのだろうな。そんな一抹の寂寥感がこのペン入れを私の手元に引き寄せたのかもしれません。